2 腸の薬(整腸薬、止瀉薬、瀉下薬)
腸の役割
・腸は、胃で細分化された栄養素や水分が、体内に吸収されるために必要な臓器で、小腸と大腸に大別できる。胃で消化された栄養素は、その後小腸、さらには大腸へと移動する。
・小腸では主に栄養素や水分の吸収を行い、一部栄養素の消化も行う。大腸では腸内容物の水分量を調整し、糞便生成を行う。
腸の不調と症状
・腸における消化、栄養成分や水分の吸収が正常に行われなかったり、腸管がその内容物を送り出す運動に異常を生じると、便秘や軟便、下痢といった症状が現れる。
下痢と便秘の主な発生原因
・下痢と便秘は、様々な原因により発生する。体の冷えやストレスで起こることが多いが、慢性の下痢では腸自体の病変も懸念される。また、便意をがまんすることが多い人では慢性の便秘になりやすい。
整腸薬、止瀉薬、瀉下薬
・下痢や便秘の治療薬として、整腸薬や止瀉(ししゃ)薬、瀉下(しゃげ)薬がある。整腸薬は文字通り腸の調子を整えるはたらきを持つ。「瀉(しゃ)」という文字には「お腹をくだす」という意味があり、止瀉薬は下痢止めの役割を、瀉下薬は下剤や便秘薬の役割を担っている。
・整腸薬、瀉下(しゃげ)薬では、医薬部外品として製造販売されている製品もあるが、それらは人体に対する作用が緩和なものとして、配合できる成分(瀉下(しゃげ)薬については、糞便のかさや水分量を増すことにより作用する成分に限られる。)やその上限量が定められている。
・また、効能・効果の範囲も限定される。たとえば、下痢・便秘の繰り返し等の場合における整腸については、医薬品においてのみ認められている。
a 整腸成分
・整腸薬は、腸内細菌の数やバランスを整えたり、腸の活動を促すことで、腸の調子を整える薬である。生菌成分や生薬成分、トリメブチンマレイン酸塩が配合される。
トリメブチンマレイン酸塩
・トリメブチンマレイン酸塩は、消化管(胃および腸)の平滑筋に直接作用して、消化管の運動を調整する作用があるとされる。
トリメブチマレイン酸塩の作用イメージ
b 止瀉(ししゃ)成分
・止瀉薬は、いわゆる下痢止めの薬であり、腸やその機能に直接はたらきかける成分や、腸管内の環境を整える成分が主に配合される。
・止瀉成分は、収斂(しゅうれん)成分、ロペラミド塩酸塩、腸内殺菌成分、吸着成分に分けられる。成分によって期待される効果が異なるので、詳しくは各項目を確認しよう。
①収斂成分
・腸粘膜のタンパク質と結合して不溶性の膜を形成し、腸粘膜をひきしめる(収斂(しゅうれん))ことにより、腸粘膜を保護することを目的として、次没食子酸(じもつしょくしさん)ビスマスなどの成分が含まれる。
収斂成分を主体とする止瀉薬の注意
・収斂成分を主体とする止瀉(ししゃ)薬については、細菌性の下痢や食中毒のときに使用して腸の運動を鎮めると、かえって状態を悪化させるおそれがある。
・その他、ビスマスを含む成分、タンニン酸アルブミンの服用で注意すべき点は以下の通り。
②ロペラミド塩酸塩
・ロペラミド塩酸塩は、食べ過ぎや飲み過ぎによる下痢、寝冷えによる下痢の症状に用いられる。また、水分や電解質の分泌も抑える作用もあるとされる。
・中枢抑制作用が増強するおそれがあるため、服用時は飲酒しないこととされている。
ロペラミド塩酸塩は注意すべき点が多い
・ロペラミド塩酸塩は、以下の通り注意すべき点が多いので、しっかりおさえておこう。
③腸内殺菌成分
・細菌感染による下痢の症状を鎮めることを目的として用いられる成分である。特徴を確認しておこう。
④吸着成分
・腸管内の異常発酵等によって生じた有害な物質を吸着させることを目的として、以下の成分が配合されることがある。
炭酸カルシウム
沈降炭酸カルシウム
乳酸カルシウム
リン酸水素カルシウム
天然ケイ酸アルミニウム
ヒドロキシナフトエ酸アルミニウム
カオリン(生薬成分)
薬用炭(生薬成分)
c 瀉下成分
・瀉下(しゃげ)薬は、下剤や便秘薬の役割を担っており、便秘の症状や便秘に伴う諸症状に用いられる。
・瀉下成分として、刺激性瀉下成分、無機塩類、膨潤性瀉下成分、DSS、マルツエキスがある。詳細は各項目参照。
①刺激性瀉下成分
・腸管を刺激して、反射的な腸の運動を引き起こすことによる瀉下(しゃげ)作用を目的として配合される成分である。小腸を刺激するものと、大腸を刺激するものがある。
・刺激性瀉下成分が配合された瀉下薬については、大量に使用することは避けることとされている(腸管粘膜への刺激が大きくなり、激しい腹痛や腸管粘膜に炎症を引き起こすおそれがあるため)。
i)小腸刺激性瀉下成分
・小腸刺激性瀉下(しゃげ)成分として、生薬成分のヒマシ油と加香ヒマシ油が用いられる。
ヒマシ油の特徴と注意
・ヒマシ油は、ヒマシ(トウダイグサ科のトウゴマの種子)を圧搾して得られた脂肪油である。小腸でリパーゼの働きによって生じるヒマシの分解物が、小腸を刺激することで瀉下(しゃげ)作用をもたらすと考えられている。
・日本薬局方収載のヒマシ油と加香ヒマシ油は、腸内容物の急速な排除を目的として用いられる。主に誤食・誤飲等による中毒の場合など、腸管内の物質をすみやかに体外に排除させなければならない場合に用いられる。
・防虫剤や殺鼠剤(さっそざい)を誤って飲み込んだ場合のような脂溶性の物質による中毒には使用を避ける必要がある(ナフタレンやリン等がヒマシ油に溶け出して、中毒症状を増悪させるおそれがある)。
・急激で強い瀉下作用(峻下(しゅんげ)作用)を示すため、激しい腹痛または悪心・嘔吐の症状がある人、妊婦または妊娠していると思われる女性、3歳未満の乳幼児では使用を避けることとされている。
・吸収された成分の一部が乳汁中に移行して、乳児に下痢を引き起こすおそれがあり、母乳を与える女性では使用を避けるか、又は使用期間中の授乳を避ける必要がある。
トウゴマ
ii)大腸刺激性瀉下(しゃげ)成分
・大腸を刺激して排便を促すことを目的として、以下の成分が用いられる。
センノシドはセンナやダイオウに含まれている
ビサコジル
・ビサコジルは、大腸のうち特に結腸や直腸の粘膜を刺激して、排便を促すと考えられている。また、結腸での水分の吸収を抑えて、糞便のかさを増大させる働きもあるとされる。内服薬のほか、浣腸薬(坐薬)としても用いられる。
ピコスルファートナトリウム
・ピコスルファートナトリウムは、胃や小腸では分解されないが、大腸に生息する腸内細菌によって分解されて、大腸への刺激作用を示すようになる。
センナ、センノシドが配合された瀉下薬は、妊婦又は妊娠していると思われる女性では使用を避ける
・刺激性瀉下(しゃげ)成分が配合された瀉下薬は一般に、腸の急激な動きに刺激されて流産・早産を誘発するおそれがある。特に、センナやセンノシドが配合された瀉下薬については、妊婦又は妊娠していると思われる女性では、使用を避けるべきである。
大腸刺激性瀉下成分は、母乳を与える女性でも注意が必要
・大腸刺激性瀉下成分のうち、センナ、センノシド、ダイオウ、カサントラノールについては、吸収された成分の一部が乳汁中に移行することが知られている。乳児に下痢を生じるおそれがあるので、母乳を与える女性では使用を避けるか、使用期間中の授乳を避ける必要がある。
・構成生薬にダイオウを含む漢方処方製剤においても、同様に、母乳を与える女性では使用を避けるか、又は使用期間中の授乳を避けることとされている。
②無機塩類
・無機塩類は、腸内容物の浸透圧【語句説明】を高めることを主な目的として配合される。浸透圧を高めて糞便中の水分量を増し、また、大腸を刺激して排便を促すことを目的とする。
・主に含まれる成分としては、マグネシウムを含む成分と、ナトリウムを含む成分がある。使用を注意すべき人もいるので、確認しておこう。
【語句説明】浸透圧
・水分の移動は濃度の低い方から濃度の高い方に動き、この水分の移動に伴う圧力差を浸透圧という。腸管における腸内容物からの水分の吸収は浸透圧の差を利用しているため、腸内容物の塩分濃度を高めることで、水分の吸収が妨げられる。
③膨潤性瀉下(しゃげ)成分
・腸管内で水分を吸収して腸内容物に浸透し、糞便のかさを増やすとともに糞便を柔らかくすることによる瀉下(しゃげ)作用を目的として、以下の成分が用いられる。
膨潤性瀉下成分
・膨潤性瀉下(しゃげ)成分が配合された瀉下(しゃげ)薬については、その効果を高めるため、使用と併せて十分な水分摂取がなされることが重要である。
④ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)
・腸内容物に水分が浸透しやすくする作用があり、糞便中の水分量を増して柔らかくすることによる瀉下(しゃげ)作用を期待して用いられる。
⑤マルツエキス
・マルツエキスは、その主成分である麦芽糖が腸内細菌によって分解(発酵)して生じるガスによって便通を促すとされている。
・瀉下(しゃげ)薬としては比較的作用が穏やかなため、主に乳幼児の便秘に用いられる。
相互作用
・医薬品の成分の中には副作用として便秘や下痢を生じるものがあり、止瀉(ししゃ)薬や瀉下(しゃげ)薬と一緒にそうした成分を含有する医薬品が併用された場合、作用が強く現れたり、副作用を生じやすくなるおそれがある。
・逆に、整腸薬や止瀉(ししゃ)薬、瀉下(しゃげ)薬が他の医薬品の有効性や安全性に影響を及ぼすこともある。たとえば、駆虫薬は駆除した寄生虫の排出を促すため瀉下薬が併用されることがあるが、ヒマシ油を使用した場合には、駆虫成分が腸管内にとどまらず吸収されやすくなり、全身性の副作用を生じる危険性が高まるため、駆虫薬とヒマシ油との併用は避けることとされている。
駆虫薬とヒマシ油は併用NG
腸の薬同士や食品との相互作用に注意
・整腸薬、止瀉薬、瀉下薬は、それぞれ特徴があるので、飲み合わせによっては副作用が起こる可能性があるので注意が必要である。また、食品との飲み合わせについても注意したい。
受診勧奨
・一般用医薬品の使用は、あくまで対症療法(一時的な症状をおさえるもの)であり、下痢や便秘を引き起こした原因の特定やその解消を図ることが、一般用医薬品の適正な使用において重要となる。
・医薬品(胃腸薬を含む)の副作用として下痢や便秘が現れることもある。医薬品の使用中に原因が明確でない下痢や便秘を生じた場合は、安易に止瀉(ししゃ)薬や瀉下(しゃげ)薬によって症状を抑えようとせず、その医薬品の使用を中止して、医師や薬剤師などの専門家に相談するよう説明がなされるべきである。
・過敏性腸症候群【語句解説】の便通障害のように下痢と便秘が繰り返し現れるものもあり、症状が長引くような場合には、医師の診療を受けるなどの対応が必要である。
【語句解説】過敏性腸症候群
・腸管の組織自体に形態的な異常はないにもかかわらず、腸が正常に機能せず、腹痛や下痢・便秘などを生じる病気。
下痢の状態によっては病院へ
便秘薬は常用しない。慢性的な便秘は病院へ
⑤生薬成分
・生薬成分として用いられる木クレオソート※は、過剰な腸管の(蠕動(ぜんどう))運動を正常化し、あわせて水分や電解質の分泌も抑える止瀉(ししゃ)作用がある。
・歯に使用する場合、局所麻酔作用もあるとされる。
※クレオソートのうち、医薬品として使用されるのは木材を原料とする「木クレオソート」である。石炭を原料とする「石炭クレオソート」は発がん性のおそれがあり、医薬品としては使用できない。
毎日の排便が滞る時は他の方法を指導する
大腸刺激性瀉下(しゃげ)成分配合の瀉下薬は、服用してから数時間後に効果のあるものが多いので、就寝前に服用して起床時に効果を求めると、排便のリズムも付きやすい。
ただ、毎日漫然と同じ瀉下薬を連続して服用していると、腸の運動が緩慢になり、服用する薬の量を増やさないと効果が出なくなることが多い。大腸刺激性瀉下成分配合の瀉下薬は、便秘時の頓服として使用すべきで、毎日の排便が滞るような時は以下のアドバイスを検討し、大腸刺激性瀉下成分のみに依存しない方法を指導することが必要である。
毎日の排便が滞る際にアドバイスを検討すべきこと
無機塩類や膨潤性瀉下成分の製剤を使用する
ビフィズス菌や乳酸菌などの整腸成分の製剤を並行して使用する
食物繊維を積極的に摂る