1 咳止め・痰を出しやすくする薬(鎮咳去痰薬)
咳(せき)とは
・咳は、気管や気管支に何らかの異変が起こった時に、その刺激が中枢神経系に伝わり、延髄(えんずい)にある咳嗽(がいそう)中枢のはたらきにより引き起こされる反応である。
咳の原因
・咳が発生する原因についてみていこう。
咳と喘息
・気道粘膜に炎症を生じたときにも咳が誘発され、また、炎症に伴って気管や気管支が収縮して喘息(ぜんそく)(息が切れて、喉がゼーゼーと鳴る状態)を生じることもある。
痰(たん)とは
・呼吸器官に感染を起こしたときや、空気が汚れた環境で過ごしたり、タバコを吸いすぎたときなどには、気道粘膜からの粘液分泌が増える。その粘液に、気道に入り込んだ異物や粘膜上皮細胞の残骸などが混じって痰(たん)となる。
・痰が気道粘膜上に滞留すると呼吸の妨げとなるため、反射的に咳が生じて痰を排除しようとする。
鎮咳去痰薬とは
・鎮咳去痰(ちんがいきょたん)薬は、咳(せき)を鎮める、痰(たん)の切れを良くする、また、喘息(ぜんそく)症状を和らげることを目的とする医薬品の総称である。
鎮咳去痰薬の作用
2)代表的な配合成分等、主な副作用
・鎮咳去痰(ちんがいきょたん)薬には、咳を鎮める成分、気管支を拡げる成分、痰の切れを良くする成分、気道の炎症を和らげる成分等を組み合わせて配合されている。
a 中枢神経系に作用して咳(せき)を抑える成分
・咳を抑えることを目的とする成分のうち、延髄の咳嗽(がいそう)中枢に作用する主なものは以下の通り。なお、麻薬性鎮咳成分(コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩)は、モルヒネと同じ基本構造を持ち、依存性がある。それ以外の成分は、非麻薬性鎮咳成分と呼ばれる。
麻薬性鎮咳成分の注意点
・麻薬性鎮咳成分は、長期連用や大量摂取によって倦怠(けんたい)感や虚脱感、多幸感等が現れることがあり、薬物依存につながるおそれがある。
・その他にも、不適正な使用や便秘、胎児や母乳への移行も懸念される。
・ジヒドロコデインリン酸塩、メチルエフェドリン塩酸塩等の反復摂取によって依存を生じている場合は、自己努力のみで依存からの離脱を図ることは困難であり、薬物依存は医療機関での診療が必要な病気である。
・なお、コデインリン酸塩水和物とジヒドロコデインリン酸塩の12歳未満への使用については、平成29年に以下のように取り扱うことが決まった。
b 気管支を拡げる成分(気管支拡張成分)
・気管支を拡げる成分として、交感神経系を刺激して気管支を拡張させるアドレナリン作動成分やマオウと、自律神経系を介さずに気管支の平滑筋に直接作用して弛緩(しかん)させ、気管支を拡張させるキサンチン系成分(ジプロフィリン等)がある。
・より細かく分類すると、以下のように分けられる。アドレナリン作動成分は、呼吸を楽にして咳や喘息の症状を鎮めることを目的として用いられる。
・マオウは、アドレナリン作動成分と同様の作用を示す生薬成分で、気管支拡張のほか、発汗促進、尿量増加(利尿)等の作用も期待される。
心臓病、高血圧、糖尿病、甲状腺機能障害の人の症状を悪化させるおそれ
・アドレナリン作動成分及びマオウ(構成生薬にマオウを含む漢方処方製剤も同様。)については、気管支に対する作用のほか、交感神経系への刺激作用によって、心臓血管系や、肝臓でのエネルギー代謝等にも影響が生じることが考えられる。
アドレナリン作動成分の特徴と、症状が悪化する可能性があるもの
キサンチン系成分(ジプロフィリンなど)の副作用/注意事項
・キサンチン系成分には動悸(どうき)の副作用が認められる。また、症状を悪化させるおそれがあるため、甲状腺機能障害や、てんかんの持病がある人では、使用前に医師・薬剤師に相談すべきである。
c 痰(たん)の切れを良くする成分(去痰成分)
・ひとことで「痰の切れを良くする」といっても、成分により特徴は4つに大別される。それぞれおさえておこう。
d 炎症を和らげる成分(抗炎症成分)
・気道の炎症を和らげる成分として、トラネキサム酸、グリチルリチン酸二カリウム、カンゾウ等が配合される場合がある。
e 抗ヒスタミン成分
・咳(せき)や喘息(ぜんそく)、気道の炎症は、アレルギー【語句解説】に起因することがあり、鎮咳(ちんがい)成分や気管支拡張成分、抗炎症成分の働きを助ける目的で、以下の抗ヒスタミン成分が配合されることがある。
・気道粘膜での粘液分泌を抑制することで痰(たん)が出にくくなることがあるため、痰の切れを良くしたい場合は併用に注意する必要がある。
【語句解説】アレルギー
・アレルギーによる気管支喘息(ぜんそく)は、炎症による粘膜の腫れにより、気道の過敏性が亢進して、気管支の内径が狭くなるとともに、ヒスタミン等の物質が気管支を収縮させることで引き起こされる。
f 殺菌消毒成分
・口腔咽喉薬の効果を兼ねたトローチ剤やドロップ剤では、セチルピリジニウム塩化物等の殺菌消毒成分が配合されている場合がある。
・薬効成分は基本的に腸で吸収され、循環血液中に入って薬効をもたらす。一方、殺菌消毒成分は口腔内及び咽頭部において局所的に作用する。したがって、口中に含み、噛まずにゆっくり溶かすようにして使用されることが重要であり、噛み砕いて飲み込んでしまうと殺菌消毒作用は期待できない。
g 生薬成分
・比較的穏やかな鎮咳去痰作用を示し、中枢性鎮咳成分、気管支拡張成分、去痰成分又は抗炎症成分の働きを助けることを期待して、次のような生薬成分が配合されている場合がある。
・それぞれの生薬について、詳しくみていこう。
相互作用
・一般用医薬品の鎮咳去痰薬は、複数の有効成分が配合されている場合が多く、他の鎮咳去痰薬、かぜ薬、抗ヒスタミン成分やアドレナリン作動成分を含有する医薬品(鼻炎用薬、睡眠改善薬、乗物酔い防止薬、アレルギー用薬等)などが併用された場合、同じ成分又は同種の作用を有する成分が重複摂取となり、効き目が強すぎたり、副作用が起こりやすくなるおそれがある。
・一般の生活者においては、「咳止め」と「鼻炎の薬」等は影響し合わないとの誤った認識がなされることが考えられるので、医薬品の販売等に従事する専門家において適宜注意を促していくことが重要である。
鎮咳去痰薬には解熱成分が配合されていない
・鎮咳去痰薬に解熱成分は配合されておらず、発熱を鎮める効果は期待できない。発熱を伴うときは、呼吸器に細菌やウイルス等の感染を生じている可能性がある。
・咳がひどく痰に線状の血が混じることがある、又は黄色や緑色の膿性の痰を伴うような場合には、一般用医薬品の使用によって対処を図るのでなく、早めに医療機関を受診することが望ましい。
間質性肺炎かも?
・痰を伴わない乾いた咳が続く場合には、間質性肺炎等の初期症状である可能性があり、また、その原因が医薬品の副作用によるものであることもある。
慢性閉塞性肺疾患かも?
・咳や痰、息切れ等の症状が長期間にわたっている場合には、慢性気管支炎や肺気腫【語句解説】などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)の可能性があり、医師の診療を受けるなどの対応が必要である。
・喫煙(当人の喫煙だけでなく、生活環境に喫煙者がいる場合の受動喫煙を含む。)は、咳や痰などの呼吸器症状を遷延化・慢性化させ、COPDのリスク要因の一つとして指摘されており、喫煙に伴う症状のため鎮咳去痰薬を漫然と長期間にわたって使用することは適当でない。
【語句解説】肺気腫
・何らかの原因によって次第に肺胞が壊れて、呼吸機能が低下する病気。
喘息(ぜんそく)
・喘息については、気管支粘膜の炎症が慢性化していると、一般用医薬品の鎮咳去痰薬で一時的に症状を抑えることができたとしても、しばらくすると発作が繰り返し現れる。
・喘息発作が重積すると生命に関わる呼吸困難につながることもあり、一般用医薬品の使用によって対処を図るのでなく、早期に医療機関での診療を受けるなどの対応が必要である。