消化器系
人体の構造と働き
・ヒトの体は、細胞が集まって構成されており、関連する働きを持つ細胞が集まって組織を作り、複数の組織が組み合わさって一定の形態を持ち、特定の働きをする器官が形成される。器官が互いに連絡して協働し、全体として一つの機能を持つ場合、それらを器官系という。
・また、細胞と細胞の間には、カルシウム化合物、粘液物質、膠原(こうげん)線維等の物質が存在し、これを細胞間質という。
消化管と消化腺
・飲食物はそのままの形で栄養分として利用できず、消化管と消化腺からなる消化器系の作用により、消化・吸収される必要がある。
・消化器系は、飲食物を消化し、生命を維持していくため必要な栄養分として吸収し、その残滓(ざんし)を体外に排出する器官系である。消化管は口腔(こうくう)から肛門(こうもん)まで続く管であり、消化腺は消化液を分泌する細胞組織のことである。
消化管と消化腺
化学的消化と機械的消化
・消化には、消化腺から分泌される消化液による化学的消化と、咀嚼(そしゃく。食物を噛み、口腔内で粉砕すること)や消化管の運動による機械的消化とがある。
歯
・歯は、歯周組織(歯肉、歯根膜、歯槽骨(しそうこつ)、セメント質)によって上下の顎(あご)の骨に固定されている。歯槽骨の中に埋没している歯の部分を歯根、歯頚(しけい。歯肉線のあたり)を境に口腔(こうくう)に露出する部分を歯冠という。
・歯冠の表面はエナメル質で覆われ、体で最も硬い部分となっている。エナメル質の下には象牙質と呼ばれる硬い骨状の組織があり、神経や血管が通る歯髄を取り囲んでいる。
歯の構造
齲蝕
・歯の齲蝕(うしょく)が象牙質に達すると、神経が刺激されて、歯がしみたり痛みを感じるようになる。
【語句解説】齲蝕(うしょく)
・口腔内の常在細菌が糖質から産生する酸で歯が脱灰されることによって起こる歯の欠損。いわゆる「むし歯」。
舌
・舌の表面には、舌乳頭という無数の小さな突起があり、味覚を感知する部位である味蕾(みらい)が分布している。舌は味覚を感知するほか、咀嚼(そしゃく)された飲食物を撹拌(かくはん)して唾液と混和させる働きがある。
唾液腺
・唾液(だえき)腺は、唾液を分泌し、食物を湿潤させてかみ砕きやすくする。また、咀嚼(そしゃく)物を滑らかにして嚥下(えんげ)を容易にする。
唾液の特徴
【語句解説】リゾチーム
・リゾチームには細菌の細胞壁を分解する酵素作用のほか、消炎作用などもあり、生体防御因子として働く。唾液以外に、鼻汁や涙液にも含まれている。
咽頭
・咽頭(いんとう)は、口腔(こうくう)から食道に通じる食物路と、呼吸器の気道とが交わるところである。
・飲食物を飲み込む運動(嚥下(えんげ))が起きるときには、喉頭の入り口にある弁(喉頭蓋(こうとうがい)が反射的に閉じることにより、飲食物が喉頭や気管に流入せずに食道へと送られる。
食道
・食道は喉もとから上腹部のみぞおち近くまで続く、直径1〜2cmの管状の器官である。消化液の分泌腺はない。
・嚥下(えんげ)された飲食物は、重力によって胃に落ち込むのでなく、食道の運動によって胃に送られる。食道の上端と下端には括約筋があり、胃の内容物が食道や咽頭に逆流しないように防いでいる。なお、胃液が食道に逆流すると、むねやけが起きる。
胃の動き
・胃は、上腹部にある中空の臓器である。胃の中身が空の状態では扁平(へんぺい)に縮んでいるが、食道から内容物が送られてくると、その刺激に反応して胃壁の平滑筋が弛緩(しかん)し、容積が拡がる。これを胃適応性弛緩という。
胃のはたらき
・胃の内壁は粘膜で覆われて多くのひだをなしている。粘膜の表面には無数の微細な孔があり、胃腺につながって胃酸(塩酸)のほか、ペプシノーゲンなどを分泌している。
胃から分泌されるもの
・胃液分泌と粘液分泌のバランスが崩れると、胃液により胃の内壁が損傷を受けて胃痛等の症状を生じることがある。
・なお、タンパク質がペプシンによって半消化された状態をペプトンという。
胃内滞留時間
・食道から送られてきた内容物は、胃の運動によって胃液と混和され、かゆ状となって小腸に送り出されるまで数時間、胃内に滞留する。滞留時間は、炭水化物主体の食品の場合には比較的短く、脂質分の多い食品の場合には比較的長い。
小腸(十二指腸、空腸、回腸)
・小腸は、全長6〜7mの管状の臓器で、十二指腸、空腸、回腸の3部分に分かれる。
小腸の構造
十二指腸
・十二指腸は、胃から連なる約25cmのC字型に彎曲(わんきょく)した部分である。彎曲部には膵臓(すいぞう)からの膵管と胆嚢(たんのう)からの胆管の開口部があり、それぞれ膵液と胆汁を腸管内へ送り込んでいる。
・腸の内壁からは腸液が分泌され、十二指腸で分泌される腸液に含まれる成分の働きによって、膵液中のトリプシノーゲンがトリプシンになる。トリプシンは、胃で半消化されたタンパク質(ペプトン)をさらに細かく消化する酵素である。
空腸、回腸
・小腸のうち十二指腸に続く部分の、概ね上部40%が空腸、残り約60%が回腸であるが、明確な境目はない。
・空腸で分泌される腸液(粘液)に、腸管粘膜上の消化酵素(半消化されたタンパク質をアミノ酸まで分解するエレプシン、炭水化物を単糖類(ブドウ糖、ガラクトース、果糖)まで分解するマルターゼ、ラクターゼ等)が加わり、消化液として働く。
・小腸の運動によって、内容物がそれらの消化液(膵液、胆汁、腸液)と混和されながら大腸へと送られ、その間に消化と栄養分の吸収が行われる。
小腸における栄養分の吸収
・小腸は栄養分の吸収に重要な器官であり、内壁の表面積を大きくする構造を持つ。十二指腸の上部を除く小腸の内壁には輪状のひだがあり、その粘膜表面は絨毛(じゅうもう。柔突起ともいう)に覆われてビロード状になっている。絨毛を構成する細胞の表面には、さらに微絨毛が密生して吸収効率を高めている。
・炭水化物とタンパク質は、消化酵素の作用によってそれぞれ単糖類、アミノ酸に分解されて吸収される。脂質(トリグリセリド)は、消化酵素(リパーゼ)の作用によって分解を受けるが、小腸粘膜の上皮細胞で吸収されると脂質に再形成され、乳状脂粒(リポタンパク質【語句解説】の一種でカイロミクロンとも呼ばれる)となる。その際、脂溶性ビタミンも一緒に取り込まれる。
炭水化物、タンパク質、脂質の吸収
【語句解説】リポタンパク質
・脂質がタンパク質などの物質と結合した微粒子。
膵臓
・膵臓(すいぞう)は、胃の後下部に位置する細長い臓器で、膵液を十二指腸へ分泌する。膵臓の役割と膵液の特徴について確認しておこう。
胆嚢
・胆嚢(たんのう)は、肝臓で産生された胆汁を濃縮して蓄える器官で、十二指腸に内容物が入ってくると収縮して腸管内に胆汁を送り込む。
・胆汁に含まれる胆汁酸塩(コール酸、デオキシコール酸等の塩類)は、脂質の消化を容易にするとともに、脂溶性ビタミンの吸収を助ける。腸内に放出された胆汁酸塩の大部分は、小腸で再吸収されて肝臓に戻される。これを腸肝循環という。
・胆汁には、古くなった赤血球や過剰のコレステロール等を排出する役割もある。胆汁に含まれるビリルビン(胆汁色素)は、赤血球中のヘモグロビンが分解されて生じた老廃物で、腸管内に排出されたビリルビンは、腸管内に生息する常在細菌(腸内細菌)によって代謝されて、糞便を茶褐色にする色素となる。
肝臓
・肝臓は、大きい臓器であり、横隔膜の直下に位置する。栄養素の代謝等に不可欠な臓器であり、以下の3つの主な役割を担っているほか、胆汁の産生等も行っている。
栄養素の代謝・貯蔵
・肝臓にはブドウ糖(グルコース。単糖類の一つ)を代謝し、貯蔵する役割がある。小腸で吸収されたブドウ糖は、血液によって肝臓に運ばれ、代謝されたのちにグリコーゲンとして蓄えられる。他にも様々な栄養素が肝臓で代謝され、全身に供給されたり肝臓に貯蔵されている。
肝臓における栄養素の代謝・貯蔵
生体に有害な物質の無毒化・代謝
・消化管等から吸収または体内で生成した、滞留すると生体に有害な物質を、肝細胞内の酵素系の働きで代謝して無毒化または体外に排出されやすい形にする。ただし、まれに物質によっては、代謝を受けて生体に有害な(発癌性等)物質となるものもある。
・ヘモグロビンが分解して生じたビリルビンも肝臓で代謝されるが、肝機能障害や胆管閉塞などを起こすとビリルビンが循環血液中に滞留して、黄疸(おうだん。皮膚や白目が黄色くなる症状)を生じる。
生体物質の産生
・肝臓では、コレステロールやフィブリノゲン等の血液凝固因子、アルブミン、各種アミノ酸等、生命維持に必須な役割を果たす種々の生体物質(生物の体内に存在する化学物質の総称)が産生されている。
【語句解説】必須アミノ酸
・体内で作られないため、食品などから摂取する必要があるアミノ酸。ヒトの場合、トリプトファン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジンの9種のアミノ酸が必須アミノ酸とされる。
大腸
・大腸は、盲腸、虫垂、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸からなる管状の臓器で、内壁粘膜に絨毛(じゅうもう)がない点で小腸と区別される。
・直腸は、大腸の終末の部分で、肛門(こうもん)へと続いている。
大腸の運動による栄養素の吸収
・腸の内容物は、大腸に入ってきたときはかゆ状であるが、大腸の運動によって腸管内を通過するに従って水分とナトリウム、カリウム、リン酸等の電解質の吸収が行われ、固形状の糞便(ふんべん)が形成される。大腸では消化はほとんど行われない。
・大腸の粘膜から分泌される粘液(大腸液)は、便塊(べんかい)を粘膜上皮と分離しやすく滑らかにする。
大腸の腸内細菌による作用
・大腸内には腸内細菌が多く存在し、腸管内の食物繊維(難消化性多糖類)を発酵分解する。大腸の粘膜上皮細胞は、腸内細菌が食物繊維を分解して生じる栄養分を、その活動に利用しており、大腸が正常に働くには、腸内細菌の存在が重要である。
・また、大腸の腸内細菌は、血液凝固や骨へのカルシウム定着に必要なビタミンK等の物質も産生している。なお、腸内細菌による発酵で、糞便(ふんべん)の臭気の元となる物質やメタン、二酸化炭素等のガスが生成される。
糞便の成分
・通常、糞便の成分の大半は水分で、そのほか、はがれ落ちた腸壁上皮細胞の残骸(15〜20%)や腸内細菌の死骸(10〜15%)が含まれ【語句解説】、食物の残滓(ざんし)は約5%に過ぎない。糞便となって直腸に達すると、刺激が脳に伝わって便意を生じる。
【語句解説】
・食事を摂らなくても排泄される糞便は、これらが排出されたものである。
糞便の滞留と便意
・通常、糞便は下行結腸、S状結腸に滞留し、直腸は空になっている。S状結腸に溜まった糞便が直腸へ送られてくると、その刺激に反応して便意が起こる。
肛門
・肛門(こうもん)は、直腸粘膜が皮膚へと連なる体外への開口部である。直腸粘膜と皮膚の境目になる部分には歯状線と呼ばれるギザギザの線がある。
・肛門(こうもん)周囲は肛門(こうもん)括約筋で囲まれており、排便を意識的に調節することができる。また、静脈が細かい網目状に通っていて、肛門周囲の組織がうっ血すると痔(じ)の原因となる。